道免主任教授の「リハビリテーション医療についてのQ&A」

これまで二十数年にわたり、あらゆる形態のリハビリ専門病院で勤務した経験から、リハビリ医療についてよく質問される内容について個人的見解を申し上げます。診察をした上での相談ではありませんので、あくまでも参考意見ということでご了承下さい。

Q1:良いリハビリテーション病院を紹介してください

良いリハビリテーション病院を見分けるためのいくつかのポイントを申し上げます。
医療改革の影響などにより、しっかりした病院ほど入院期間についてあまり無理を言えなくなってきています(リハビリの場合約3か月程度)。また、リハビリ病院をいくつも転院して回るようなことも困難な時代になっています。さらに、これと同時進行して早期リハビリが推進され、リハビリは急性期からすぐにはじめて早期に家庭復帰につなげ、後遺症が残っていたら介護保険を利用する、という方向性を国も示しています。
つまり、急性期の病院の次に入院したリハビリ病院が「最初で最後の入院リハビリ」ということがほとんどだと考えて良いでしょう。 その意味では、いっそう病院選びの情報が必要な時代になってきたと思います。

→【1】理学療法士(PT)だけでなく、作業療法士(OT)、言語療法士(ST)、ケースワーカーが常勤でいる。

現在はかなり改善されてきましたが、失語症や嚥下障害(のみこみの障害)があるのにSTがいない病院に入院してしまい、十分な治療を受けられないということも少なくありません。また、前書きの通り、入院期間が3か月程度の場合、入院して1か月もたたないうちから、退院後のことを想定して色々と準備を開始する必要があります。たとえば、介護の問題、経済的問題、介護保険の申請、バリアフリー化(家屋改造)、身体障害者手帳の申請などです。ここで大きな力を発揮してくれるのが、ケースワーカー(=ソーシャルワーカー)です。ケースワーカーのいないリハビリ病院に入院してしまった場合、ほとんどをご家族が背負うことになってしまうこともあります。そのほか、臨床心理士という職種の人がいることが望ましいです。最近は、身体的なリハビリだけではなく、記憶や遂行能力などの障害に対する『認知リハビリテーション』という治療法が注目されていて、これを中心的に行うのが臨床心理士だからです。施設によっては、言語療法士や作業療法士が『認知リハビリテーション』を担当しているところもあります。

→【2】主治医がリハビリテーション科専門医(指導医)あるいは臨床認定医の資格をもっている。

リハビリテーション科専門医とは、日本リハビリテーション医学会の資格をもった医師のことです。臨床認定医の数は多いので、近くのリハビリ病院にもいる可能性が高いです。専門医などの資格について、直接病院に聞いてもいいと思います。気持ちよく親切に教えてくれる病院なら印象も良いでしょう。日本リハビリ医学会の『認定研修施設』というのがあって、専門医試験を受けるために医師が研修する病院を学会が認定しています。認定研修施設となっている病院には、専門医が少なくとも1人はいる、ということになります。
 資格があるから絶対に良い、ないから駄目、ということではありません。一定の経験をもち、試験に合格したという指標にすぎません。ただ、どうして歩けないのか、歩くためにはどんな治療が必要なのか、退院するときに介護は必要なのか、留守番くらいは可能になるのか、などの機能予後予測(見通しをつけること)やリハビリ処方(リハビリ内容の指示)をしっかり書くことは、リハビリを専門とする医師の仕事です。また、リハビリの上で必要な検査(ビデオ嚥下造影検査、動作解析、筋電図など)を行ったり、治療(ブロックや裝具処方、薬物療法など)を行ったり、退院準備(介護指導、各種書類、家屋改造など)を統括することも重要な仕事です。ですから、リハビリを専門とする医師のもとで、【1】のスタッフと一緒に良好なチーム医療を実現している病院が望ましいリハビリ病院だと思います。

→【3】総合リハビリテーション承認施設の(1)あるいは(2)と認定されている。

これは、国が決めた基準(スタッフの数、施設の面積など)に沿っているかどうかを示すものです。総合承認施設(1)というのが最も厳しい基準の施設ですが、(2)でも総合的なリハビリは可能です。診療報酬は承認施設の種類によって異なります(つまり(1)が最も高い)。

→【4】回復期リハビリテーション病棟

一般病院でも国が決めた基準を満たして認定された『回復期リハビリテーション病棟』に入院すれば、入院後1〜2週間のようなリハビリ途中の時期に退院しなくても、主治医が認める一定期間(だいたい3か月くらいのところが多い)のリハビリを受けられるようになりました。(3)の基準は、リハビリ施設の基準ですが、(4)は病棟毎の全く別の基準です。まだ、運用が始まったばかりで、病院毎に入院の基準や期間も設定が異なるかもしれませんので、個別にお問い合わせ下さい。リハビリ科の医師を確保できないため、まだまだ地域の病院には多くはありませんが、今後、徐々に増加するでしょう。従来のように、遠隔地のリハビリ病院に行くことなく、急性期病院内の急性期治療が終了したら、そのまま病棟を移るだけで、リハビリに専念できるので、とても良いシステムだと思います。

→【5】入院相談や見学時のチェックポイント

リハビリ病院に転院したいとき、どんな病院かもわからずに主治医の紹介のままに行く方は少ないでしょう。
仮に、書類審査だけだからあとは行くだけと言われたとしても、必ず施設を見に行くべきです。
その際のチェックポイントを書きます。
□ 診察をしたリハビリ科の医師が、リハビリの目的、機能予後(どこまで良くなるか)、入院期間、合併症のリスクなどについて、納得できる説明をしてくれたか。
□ 職員、看護婦、リハビリスタッフの対応はどうか。
□ 病棟、リハビリ室は清潔だったか。
□ 費用負担。
□ 急変時の対応、(リハ専門の場合)転院先の確保。
□ 付き添い(ほとんどないはず)、面会の回数(患者さんのためには多く行った方が良い)。
□ 看護体制。抑制の有無。
□ 退院後、地域での介護体制にスムーズにつなげてもらえるか。


Q2:脳卒中は6か月経過するともうなおらないと聞きましたが本当ですか?

これについては、「集団」としてみた多くの研究から、ほぼ6か月までで回復が終了する、ということが「常識」とされ、医療制度上も、6か月以降は維持期とされています。保険「医療」を行う中では、一定の原則が必要ですから、多くの医者がこの基準通りに紋切り型に説明することが少なくないのだと思います。(栗本慎一郎さんは御著書の中でこのような態度を批判されておりました。)また、数年にも渡って、麻痺した手の回復を願う気持ちはよくわかりますが、残った機能を向上させる(例えば利き手交換など)ことに全く目を向けず、そのうち仕事も退職して、病院を転々とすることは、患者さんのためにもならない、と医者が考えるのは悪意があってのことではないと思います。右片麻痺になった書道家が、右手の回復をある時期にあきらめ、左手でもう一度書道をめざし、再度の個展を開いた、という新聞記事が昔ありました。失った機能にこだわることは、人間ですから当然ですし、大切なことではありますが、こだわりつつも残存機能も強化していく方法の方が、患者さん自身にとってメリットも大きく、デメリットを防ぐことにもなると思います。半年のリハビリで、片手動作を習得し、1年後に職場復帰した人と、医学的にはほとんど絶望的な手の回復を願って、2年も病院を転々とした人と、発症後2年の時点での様子を比較すれば、一目瞭然だと思います。「障害の受容」という言葉は、やや安易に聞こえますが、要するに障害をもった状態で最大限前向きに考える「価値の転換」が重要だということです。(もちろん、そんなに簡単なことではありませんし、ある日突然そうなるものではないことは、多くの脳卒中の方のリハビリ経過をみた経験からよくわかっております。)  ここで一つお断りしておかなければならないことは、医学的にみた回復が一定の限界がある中でもさまざまであるということ、さらに、同じ回復の患者さんでも、その希望や期待が千差万別であるということです。ですから、お一人お一人の回復が本当にいつまでなのか、そして、その患者さんの期待していることがどこまでなのかをリハビリ医は見極め、適切な説明をすべきだと思います。たとえば、発症後6か月であっても、もう少し肘が曲がるようになれば買い物などでも助かるのに、と言われる患者さんに対しては、1〜2ヶ月の作業療法をやってみましょうか、と言える場合もありますが、ピアノが弾けるようになりたい、と言われた場合には、それは全く無理でしょう、と言わざるを得ないと思います。医学的にはわずかな回復が、患者さんにとってはとても役に立つこともありますし、逆に、医者がすごくよくなったでしょう、と言っても、患者さんにとって、全く無意味であることもあるわけです。  ただし、だからといって研究を怠っているわけではありません。全く腕に動きがない場合は別ですが、ある程度動かせるが「うまく」動かせない程度の方に対して、「残存機能」は麻痺していない方(反対側)の腕、だけではなく、麻痺した腕の中(本当は脳の中)にもあると考えていますです。また、脳は学習する回路ですから、障害があるなりの腕の動かし方を脳が学習する能力があるのではないか、と考えています。個人的には、あまりにも早期にあきらめることには反対です。特に、肩から手先まである程度動かせるけれども、筋緊張が高まったり、動作がぎこちない患者さんの場合、いろいろな課題をこなすことによって、手を使いやすくなるのではないか、と考えています。確かに、反対の健常な手でやった方が、早く解決する場合もあるかもしれませんが、それは問題の本質を取り違えている議論だと思います。  以上、上肢を中心に述べてきましたが、下肢についてもほぼ同様です。ただし、急性期の病院で、十分なリハビリを受けてない場合、廃用症候群(使わなかったことによる筋力低下とか拘縮(関節の固まり)など)を起こしていますので、逆にその時点ではじめてリハビリを受けるのであれば、回復の「余地」がある、ということになります。また、ある程度、歩けるようになった方の場合、慢性期であっても、筋力や体力の面で向上しますので、リハビリの意味はあると思います。 なお、現在、麻痺した上肢に積極期にアプローチする最新のリハビリ治療を開発しています。一つはCI療法であり、もう一つはロボットリハビリです。2004年のリハビリ学会などでその成果を発表します。詳しくはそれぞれリンクを御覧下さい。


Q3:脳卒中のリハビリの流れを教えてください。

■急性期リハビリは発症当日から簡単なプログラムを開始します。意識障害があっても、ベッド上で関節を動かすなどの簡単なプログラムを始めておかなければ、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)や関節拘縮、褥瘡などのリスクがあるからです。これらの症状をまとめて廃用(はいよう)症候群といいます。特に高齢者の場合、いかに廃用症候群を防ぐか、ということが大切です。  初めて食事をする際には、嚥下障害(えんげしょうがい)に注意します。先を急ぎますと、誤嚥(ごえん)して気管内食物が入ってしまい、肺炎のもとになります。むせがあるときは、必ず気管に入っていますので、いったん食事をやめ、よく咳をして出して下さい。逆に、むせがなくても誤嚥していないとは限らない(むせのない誤嚥:silent aspirationという)ので、注意が必要です。可能であれば、ビデオ嚥下造影検査を行い、安全な食形態や姿勢を確認の上、言語聴覚士による嚥下訓練を行います。  意識障害が改善してきたら、徐々に座るようにします。このとき低血圧を起こすことがありますから、必ず主治医の許可をとって下さい。低血圧を起こすことなく安定してきたら、ベッドの背もたれを上げる座位よりも、ベッドサイドに足を降ろす端座位(たんざい)の方が効果的です。およそ30分の座位ができるようになったら、リハビリ室でのリハビリに移行します。この時点で、特に必要性がなければ、尿の管(バルーンカテーテル)は抜かれているはずです。  リハビリは理学療法PT、作業療法OT、言語療法STを行います。1単位20分ずつで、それぞれ2単位行うのが標準的かと思いますが、人員不足で1単位だけしかできない病院も少なくありません。歩くためのリハビリはおもに理学療法で行いますが、少し下肢が動くようになったら、早めに下肢装具を作ります。このときの装具には健康保険が適用されます。装具を使うことによって、早期から立つ訓練ができるようになり、体重をかけて歩行訓練などを行うことで回復が促進されます。また、歩くことだけがリハビリではありませんので、身の回りの動作も積極的にリハビリするようにしましょう。こちらの方は作業療法で行います。  この時期、患者さんの心の動きにも注意して下さい。良い病院であれば、スタッフがかなり気をつけてくれると思いますが、やはり最も力になるのはご家族だと思います。
■麻痺が残ったり、日常生活での不自由が残る場合には、リハビリ専門病院または病棟に移ります。このような病棟を「回復期リハビリテーション病棟」といいます。平均的には、発症後1か月程度で転院する場合が多いようです。回復期リハビリテーション病棟に移る時期については、「発症後3か月までに入院すること」という期限が設けられていますので、これを超過しないように注意が必要です。回復期リハビリテーション病棟では、一般に急性期の病院よりも、多くのリハビリスタッフがいますので、1日4〜6単位のリハビリを受けます。また、ケースワーカーも常勤しているはずですので、介護保険、社会福祉、今後の生活のことなど相談されると良いでしょう。  順調にいけば、長い下肢装具が短い装具になり、杖で一人で歩けるようになります。もちろん、装具も杖も必要なくなる場合もあります。麻痺の回復が思わしくなかったり、その他の問題がありますと、一人では歩けない場合もあります。その場合でも、介助によって歩く練習をできるくらいになれば、寝たきりの防止に役立ちます。また、身の回りの動作については、歩くこととは別に考えてください。しっかりとリハビリをすれば、車椅子を使いながら自分で身の回りの動作をできるようになります。このとき、リハビリの進行を邪魔する問題として、高次脳機能障害、痴呆、骨関節疾患、心疾患、健側(麻痺してない側)の障害、などがあります。これらを「阻害因子」と言いますが、阻害因子に対するアプローチも大切になります。また、リハビリを焦るあまり、転んで骨折することがありますので、最大限の注意が必要です。装具はないに越したことはありませんが、転倒のリスクが減るのであれば、装具も杖も嫌がらずに使いましょう。まさに転ばぬ先の杖です。  入院期間は通常2〜3か月です。制度的には最大6か月間の入院となっていますが、実際にそこまで長く入院する必要はありません。リハビリの結果、杖や装具を使って歩ける場合、車椅子が必要な場合、何らかの介護を要する場合など、病気の重症度によってさまざまな状態になります。それぞれに状態にあった家屋改造や介護計画が必要になります。家屋改造は時間がかかることですので、退院予定日から逆算して、早めに家屋評価などを行ってもらうと良いでしょう。また、退院後の介護計画を立てるために介護保険の申請が必要です。さらに、発症後3か月以降も障害が残り、今後の回復が難しいと判断される場合には、身体障害者手帳を申請することができます。福祉サービス等を利用するために必要ですので、診断書(意見書)を主治医に書いてもらいましょう。
■退院後は、外来で仕上げ のリハビリを行います。通常は、週に1回程度です。多くの病院では、入院患者さんのリハビリに重点が置かれていて、外来リハビリを行う余裕がないのが実情です。ただ、慢性期になっても週に何回もリハビリを続ける必要がある患者さんはほとんどいません。。むしろ、自宅でどうやって機能を維持するか、ということが大切です。できれば、退院後もリハビリ専門医の外来に通い続けると良いでしょう。外来でリハビリが終了した後も、リハビリ医の外来にはずっと通うのが、最も介護予防につながる方法です。また、再発時や廃用症候群によって機能が落ちたときにも、入院リハビリを含めて適切なアドバイスを受けられると思います。 なお最近は、 再度患側の上肢などにアプ ローチするCI療法などが 試みられるようになっています。これ以上やってもよくならない、という「常識」に疑問がもたれるようになっています。CI療法は米国で始められた治療法ですが、日本では主に私たちが取り組んでいます。

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